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特許請求の範囲 補正の適法性(第1回)

 特許出願に係る明細書、特許請求に範囲、図面の補正は出願時に遡って効力を有することから、特許法第17条の2第3項は「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(・・・)に記載した事項の範囲内においてしなければならない」と規定しています。先願主義の原則を確かなものとし、第三者との利害の調整を図るために、補正による新規事項の追加を禁止しています。上記規定の趣旨は分かりやすく、当然の規定であると思います。他方で実務的には、新規事項該当性の判断はそう単純ではありません。特許請求の範囲(請求項)の補正を例に考えてみます。

 当初明細書等に明示的に記載された事項をそのまま請求項の特定事項として組み込む場合は、請求項に組み込まれた事項が当初明細書等に明示されていることを根拠に新規事項に該当しない(補正が適法)との判断になることが多いと思います。

 他方、当初明細書等に明示的な記載なく、その示唆があるとも言い切れない事項を請求項に組み込む場合、補正が新規事項に該当するかというと、日本の実務ではそのような判断にならないケースが比較的多くあります。

 例えば、技術常識に係る事項を請求項で規定する場合です。明細書等は当業者の技術常識を基礎として作り上げられた書類ですので、当初明細書等に明示的な記載がなくても、それが当業者の技術常識の範疇であれば、理論的に補正は許容されます。技術常識の範疇の事項は、当初明細書等の記載から自明な事項に該当すると言えそうです。もちろん、補正時に上申書ないし意見書で、補正が新規事項でないことを、技術常識などを踏まえて説得的に説明することは必要と思います。

 また、当初明細書等に数値範囲の上限値と下限値の組み合わせが明記されていた場合に、例えば、その下限値のみを請求項に組み込む補正はどうでしょうか。これは上限値の技術上の意義によって判断が変わる可能性があります。例えば、発明の課題解決において下限値を一定の値以上にすることが重要で、上限値は技術常識、従来技術、周知技術などを参照ないし適用して適宜に設定すれば足りる事項であれば、下限値のみを請求項に組み込む補正が認められる可能性はあるのかと思います。もちろん、補正時に上申書ないし意見書で、補正が新規事項でないことを、従来技術や発明の課題などを踏まえて、説得的に説明する必要はあると思います。

(第2回につづく)