進歩性主張の根拠事実_後出し実験データの参酌(第2回)
進歩性の判断における後出し実験データの参酌の可否について、特許・実用新案審査基準に次の指針が示されています。
「以下の(i)又は(ii)の場合は、審査官は、意見書等において主張、立証(例えば、実験結果の提示)がなされた、引用発明と比較した有利な効果を参酌する。
(i) その効果が明細書に記載されている場合
(ii) その効果は明細書に明記されていないが、明細書又は図面の記載から当業者がその効果を推論できる場合
しかし、審査官は、意見書等で主張、立証がなされた効果が明細書に記載されておらず、かつ、明細書又は図面の記載から当業者が推論できない場合は、その効果を参酌すべきでない。」
上記指針では、「その効果が明細書に記載されている」あるいは「当業者がその効果を推論できる」との判断の線引きとなる明細書の記載の程度は明らかにしていません。
一昔前の実務では、後出し実験データの参酌に慎重な立場の知財高裁の判決があり(平成17年(行ケ)第10389号「解熱鎮痛消炎剤」事件)、審査においても後出し実験データの参酌には慎重な立場だったと言われています。この判決では、適切な比較対象との対比に基づく格別顕著な効果の裏付けが明細書にないことを指摘し、格別顕著な効果を示す事後的な実験データは採用できないとの立場をとっています。
しかし、平成22年の知財高裁の判決(平成21年(行ケ)第10238号「日焼け止め剤組成物」事件)を契機に、後出し実験データを柔軟に参酌する方向に舵が切られたとも言われています。この判決では、明細書の効果の記載が定性的で漠然としたものでしたが、出願後の実験データの参酌を許容して発明の顕著な効果を認め、進歩性を肯定しました。この判決では次の説示がなされています。
「被告の主張を前提とすると、本願当初明細書に、効果が定性的に記載されている場合や、数値が明示的に記載されていない場合、発明の効果が記載されていると推測できないこととなり、後に提出した実験結果を参酌することができないこととなる。このような結果は、出願人が出願当時には将来にどのような引用発明と比較検討されるのかを知り得ないこと、審判体等がどのような理由を述べるか知り得ないこと等に照らすならば、出願人に過度な負担を強いることになり、実験結果に基づく客観的な検証の機会を失わせ、前記公平の理念にもとることとなり、採用の限りでない。」
(第3回に続く)