特許異議申立 禁反言の法理を引き出したいけれど・・・(第2回)
前回の事例のような特許異議申立では、審理主体である審判官合議体の特許発明に対する心証が、根本では会社Aの心証と同じであったとしても、現実には取消理由が通知されないことが多い印象を受けます。合議体が特許発明を、明細書等を参酌して合目的的に狭く解釈し、かかる解釈で特許が成立しているのであるから特許異議申立には理由がない、というように判断することが多いのです。会社Aとしては特許権者自らの行為として示して欲しいことを、合議体が先取りして判断を下す、ということです。これはこれで、会社Aに有利な判断を合議体が示してくれていますので、特許異議申立の目的はおよそ達成できたということになろうかと思います。しかし、会社Aが本当に安心して実施を継続できるかというと、一抹の不安が残ることもあるのではないでしょうか。
なぜなら、特許権者が合議体の解釈に同意せず、請求項の文言通りの広い解釈を主張し、特許権者と会社Aとの間で侵害・非侵害の特許議論が生じる可能性を、完全には否定しきれないと思うからです。仮に、この議論が争いに発展すれば、判断は裁判所に委ねられます。裁判において合議体の判断は尊重されるものと思います。しかし、合議体の判断を裁判所が採用せず、かつ、上記の文言通りの広い解釈のもとでも(何らかの証拠に基づき)サポート要件違反等には該当しない、との判断がくだる可能性も、完全には払拭できないように思います。裁判への進展の有無はさて置き、いざこざが生じる要因となり得るものは出来る限り取り除いておきたいところです。
事業継続の確たる判断材料が欲しい会社Aの立場に立ち、また社会経済をより円滑に回す視点からも、特許異議申立では、合議体が特許発明を積極的に限定解釈するのではなく、まずは取消理由を通知して、特許権者に応答の機会を付与することを優先してほしいと感じることがあります。