欧州単一効特許・欧州統一特許裁判所について
欧州単一効特許・欧州統一特許裁判所に関し、これまでに入手した情報を以下に纏めました。
1.概要
統一特許裁判所協定(UPCA: Unified Patent Court Agreement)の発効により、欧州単一効特許(Unitary Patent, UP)と欧州統一特許裁判所(Unified Patent Court, UPC)が導入される。
欧州単一効特許
EU内で効力がある特許。全参加国内で一括して有効。
現時点でカバーされる国は17か国(AT, BE, BG, DE, DK, EE, FI, FR, IT, LT, LU, LV, MT, NL, PT, SE and SI)(予定)
GB(イギリス)はEU離脱のため適用外
欧州統一裁判所
欧州単一効特許及び従来型欧州特許に関する訴訟を管轄。
従来型欧州特許は、新制度開始から7年の移行期間(さらに7年延長される可能性あり)は、統一特許裁判所と国内裁判所のいずれかを選択可能(国内裁判所を選択するにはオプトアウトする)
発効日:2023年4月1日(予定)
2.詳細
(1)欧州単一効特許
新制度開始以降に付与されたEP特許は、以下の①及び②のいずれかの取得が可能となる。
①特許付与された時点におけるUPC協定の批准国内で単一の効力を有する欧州単一効特許(EP-UE)
②従来型欧州特許(国ごとに有効化)
同一国で①+②の二重保護はない
一部の国では、①と国内特許の二重保護が可能
欧州単一効特許を選択した場合でも、欧州単一効特許がカバーしない国(スペイン、ポーランド、クロアチアなど)については、従来型欧州特許を有効化できる。
特許査定までの手続きは?
出願から特許査定までの手続きは今までと同じ。
特許査定後の手続きは?
登録後1カ月以内に単一効申請すると欧州単一効特許を得ることができる。
延長不可。不責事由による場合は救済措置あり。
申請に庁費用はかからない。
欧州単一効特許が登録されるまでは申請を取り下げできる。
移行期間内は、欧州特許の全文翻訳(英語以外の1つのEU公式言語)が必要。
費用は?
年金と有効化費用が大きなウエイト(国によって費用は違う)
一般的には、権利を取得したい国が3か国以下の場合は従来型の方が安い。
裁判所
単一効特許を選択した場合➡管轄特許裁判所は統一特許裁判所
(2)欧州統一裁判所(UPC)
欧州特許庁で付与された欧州特許に関する事件は、原則、統一特許裁判所の専属管轄
*新制度開始前に付与された従来型欧州特許も、原則として、統一特許裁判所の専属管轄
*特許侵害訴訟や特許無効訴訟については、UPCが管轄する。UPC条約に規定されていない訴訟(強制実施権、発明者適格、特許の帰属など)については、UPCの排他的な司法管轄権に属さないため、各国の裁判所に管轄権が残る。
移行期間中
従来型欧州特許については、新制度開始から7年の移行期間の間は、①と②の選択が可能
①統一特許裁判所
②国内裁判所
*従来型欧州特許を統一裁判所の管轄から除外することも可能。
従来型欧州特許の統一裁判所管轄からの自発的除外手続きを「オプトアウト」という。
移行期間経過後(発効後7年)はどうなるのか?
オプトアウトの選択肢はなくなり、EP特許は原則すべて欧州統一特許裁判所の専属管轄となる。(従来型も欧州単一裁判所の管轄)
ただし、UPC条約に規定されていない訴訟(強制実施権、発明者適格、特許の帰属など)については、UPCの排他的な司法管轄権に属さないため、各国の裁判所に管轄権が残る。
-オプトアウト-
対象
統一特許裁判所での訴訟が提起されたことがない従来型欧州特許
欧州特許庁で係属中の公開済み欧州特許出願
*移行期間中にオプトアウトされた欧州特許については、存続期間満了までオプトアウトされた状態が継続する。オプトインすることはできるが、再度のオプトアウトはできない。
*係属中の欧州特許出願に対してオプトアウトを申請した後に、欧州単一効特許を登録した場合は、オプトアウトは取り下げ擬制される(単一効特許は、例外なく、統一特許裁判所の管轄)
時期
新制度開始の3か月前(サンライズ期間)~移行期間(7年)の満了1か月前まで
費用
裁判所への費用は無料
サンライズ期間
発効日の3か月前から
欧州特許権者(登録済み+発効前に登録予定)は、オプトアウトできる
*発効日早々にUPCに訴訟を提起されてしまうと、UPCの管轄になってしまうので、それを避けるためにサンライズ期間中にオプトアウト申請することができる。
統一特許裁判所の管轄とする場合:
メリット
・一元的に権利行使が可能
・各国裁判所で別々に訴訟するより費用が削減できる
・迅速な手続きが期待できる(UPCでは、第一審口頭弁論まで1年以内)
・対象特許が英語で出願されていれば、手続きは英語
・国境をまたぐ侵害行為等に有利な可能性がある
デメリット
・単一の手続(無効訴訟)で各国での権利が消滅する可能性がある
・判例の蓄積がなく、予測可能性が低い
EU加盟国でない国(主にはイギリス)はどうなる?
イギリス、スイスには、UPCAの効力は及ばない ➡従来通り国内裁判所の管轄
統一特許裁判所協定(UPCA)に加盟していない国はどうなる?
スペイン、ポーランド、クロアチア ➡従来通り国内裁判所の管轄
(以上)